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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)8号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び原図面が別紙図面(一)のとおりであり、本件補正後の図面が同(二)のとおりであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によれば、原明細書には実用新案登録請求の範囲として、「腰掛け式洋式便器の便座(楕円型・馬蹄型)を使用する場合、本考案品の原紙となる可水溶性薄紙を製造工程中に二つ折乃至多重折にした巻紙を定量寸法の大判長方形状紙敷になるよう切取線を形成加工をし、さらにこの長方形状紙敷の中央部位に各種型式サイズの便座に適合する大きさの内径で楕円型に切取線を形成加工をし、これを実用に適する大きさのロール状巻紙にして、トイレツト内に設置、或は又携帯用として、上述の定量寸法を切断し中央部位が簡単に切りはなせるように多重折にして、たたみ既知の函体乃至ビニール袋に、ポツプアツプ式包装で収納する。これを使用する場合、それぞれの切取線形成加工をしてある箇所を切りはなし切り取つた中央部位は清拭用落し紙として使用し、紙敷主体は広げて便座にそのまま敷くか、或は又、便器と便座手前方向の間に紙敷隅角部位の両端を折曲げはさみこんで敷いて使用する洋式便器用簡易衛生便座紙敷。」と記載されていたことが認められる。

二 取消事由(1)について

前掲甲第一号証によれば、補正前の本願考案は、一連の可水溶性薄紙を縦方向に二つ折ないし多重折にし、定量寸法の大判長方形状紙敷になるように横方向に切取線を形成加工し(別紙図面(一)第一図a―a´)、更に右長方形状紙敷の中央部位に各種形式のサイズの便座に適合する大きさの内径で楕円型に切取線を形成加工し(同図面第1図、A´―A´´)、これを実用に適する大きさのロール状巻紙とし(同図面第1図)、携帯用に使用するときは、右紙敷を切取線a―a´にそつて定量寸法ごとに切断し、切取部Aが簡単に切離せるように折りたたみ(同図面第2図)、切取線A´―A´´にそつてAを切離して使用する(同図面第3、第4図)ことを特徴としたものであることが認められる。

1 先ず、取消事由(1)の(一)について判断する。前記のように定量寸法に切離された紙敷を携帯用に使用するべく折りたたんだときに、折込部に形成されるのは、切込みでなく単なる折線であることは明らかである。右折りたたみはきわめて簡単な操作であるから、特に折りたたみを容易にするため紙敷になんらかの事前の処理を施すことは自明なことがらとはいいがたいし、仮に事前の処理を施すとしても、それが折りたたみを容易にするためである以上、原明細書及び原図面を通して考え得る手段としては、たかだか予め所要の位置に折線又は折目を形成する程度のことであつて、切込みの形成までを含まないことは明らかである。したがつて、原告主張のように、原明細書及び原図面が紙敷の折りたたみのための事前の処理手段として切込みの形成を自明なものとして示唆しているとは到底認めることはできない。原告主張のように紙敷が機械加工によつて製造されることが通常であるということと補正事項の内容が原明細書及び原図面に自明なものとして示唆されているか否かということは、別の問題であるから、右のような紙敷加工手段が通常であるとしても、そのことによつて右の判断が左右されるものではない。

2 次に取消事由(1)の(二)について判断すると、前掲甲第一号証の原明細書及び原図面に記載された紙敷には、ちり紙として使用するため切離用の切込みを設けるという技術思想は全く開示されていない。もつとも、本件補正前の切込みのない紙敷を本件補正後の切込みのある紙敷のように四分してちり紙として使用することも可能ではあろうが、その場合の両者の作用効果を比較すると、切込みのある後者の方がはるかに分離が容易かつ正確であり、それに要する時間も短いことは明らかであつて、いかにちり紙であるから四分された形状が同型であることを要しないとはいえ、切込みがないため生ずる切離し損じによる無駄が出ることは十分に予測し得るところであるから、両者の紙敷には本質的な差があるものといわざるを得ない。したがつて、紙敷に十字型の折目があるか切込みがあるかによつて考案の本質、実体に変化を生ぜしめないとする原告の主張は理由がない。

3 以上述べたところによれば、本件補正後の実用新案登録請求の範囲第二項は明細書の要旨を変更するものというべきである。

三 取消事由(2)について

前掲甲第一号証によれば、原明細書及び原図面に記載された紙敷は、便座と皮膚を分離できる構成を有するのみであり、そのことによつて、使用者自身や第三者に対し便座について不快感、不潔感を与えないという衛生上の効果がもたらされることが認められる。しかし、甲第一号証の原明細書及び原図面には紙敷を殺菌処理又は芳香処理を施した構成は示されておらず、また、それに関する説明も全くなされていない。したがつて、本件補正後の実用新案登録請求の範囲四項は明細書の要旨を変更するものと認めざるを得ない。

四 以上のとおりであつて、原告の主張する取消事由はすべて理由がなく、本件補正が要旨変更にあたるとした審決の判断に誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本件補正後の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

1 腰掛け式洋式便器の便座を使用する紙敷であつて、水溶性薄紙を大判矩形状に裁断し、ほぼ楕円型または円形の中央部分を切離し可能になる如く切込線を形成し、函体乃至ビニール袋にポツプアツプ式包装で収納し、使用においてはそれぞれの切取線形成加工をしてある箇所を切りはなし、紙敷主体は広げて便座にそのまま敷いて使用することを特徴とする洋式便器用簡易衛生便座紙敷兼ちり紙。

2 前記の切込の外部に紙敷を四分する如き十字型切込が形成されたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第一項に記載の洋式便器用簡易衛生便座紙敷兼ちり紙。

3 該紙敷はフラツト紙、エンボス又はクレープ状の水溶性紙であることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第一項に記載の洋式便器用簡易衛生便座紙敷兼ちり紙。

4 該紙敷は殺菌処理又は芳香剤処理を施したことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第一項に記載の洋式便器用簡易衛生便座紙敷兼ちり紙。

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